十周年に寄せて

夏目漱石がロンドン留学時代、在京の奥さん宛に出した手紙にこんなくだりがあります。「日本の留学生にて茨木、岡倉という二氏来る。23日頃当地へ到着の筈なり。帰るものくるもの世は様々に候。かくすったもんだのと騒いで生涯暮らすものに候。これが済めば筆(娘の名前)の所謂の丶様に成る義に候。訳もへちまも何も無之、只面白からぬ中に時々面白き事のある世界と思ひ居らるべし。面白き中に面白からぬ事のある浮世と思ふが故にくる敷なり。生涯に愉快な事は沙の中にまじる金の如く僅かしかなきなり。・・・」(明治35年4月17日付夏目鏡宛)

これは私見によると漱石の基本思想で、それは草枕の冒頭の部分「智に働けば角が立つ。・・・とかくにこの世は住みにくい。住みにくさが高じると、安い所へ引き越したくなる。何処へ越しても住みにくいと悟ったとき、詩が生まれて、画が出来る。」に現れています。

この十年私は、大体面白く時々面白くないことがあるという、恵まれた生活をさせていただいております。最も面白いというか幸せな時は、サービスダッシュして相手の厳しいリターンを巧く処理し、ポイントを取った瞬間です。これもひとえにCTC、特にオーナー古木通夫氏の「上手な人も下手な人も楽しくテニスが出来る雰囲気」という大方針のお御蔭です。時々この大方針を分かっていない人に巡り逢いますが、そんなのは当たり前と思うことにしています。他のクラブだったら極く普通のことでしょう。

私のテニスに関する考え方は三年前のナイスラリーエッセイに書きましたので、お暇な時バックナンバーを見ていただければ幸いです。駄文を最後までお読みいただきまして有難うございました。


中央林間テニスクラブ会報 "Nice Rally" 十周年記念号(1993.10.31)