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土壌水分保持曲線 (SWRC) は体積含水率θの圧力水頭hによる関数である水分保持関数 θ(h) によってあらわされる(関, 2017)。ここで h は不飽和で正の値とするサクション(負圧)である。 有効水分量 Se は \(S_e = \frac{\theta-\theta_r}{\theta_s-\theta_r}\) と定義される。 ここで、飽和含水率θsと残留含水率θrは定数とすることも変数とすることもできる。 Se(h) から θ(h) を θ(h) = (θs - θr)Se(h) + θr によって得ることができる。
SWRC Fit では、SWRC の測定値を以下に記述されている複数のSe(h)関数で非線形回帰してパラメータを決定することができる。
略記 | モデル | 式 | パラメータ |
BC | Brooks and Corey | \(S_e = \begin{cases}\left(h / h_b\right)^{-\lambda} & (h>h_b) \\ 1 & (h \le h_b)\end{cases}\) | θs θr, hb, λ |
VG | van Genuchten | \(S_e = \biggl[\dfrac{1}{1+(\alpha h)^n}\biggr]^m ~~ (m=1-1/n)\) | θs θr, α, n |
KO | Kosugi | \(\begin{eqnarray}S_e &=& Q \biggl[\dfrac{\ln(h/h_m)}{\sigma}\biggr]\\Q(x) &=& \mathrm{erfc}(x/\sqrt{2})/2\end{eqnarray}\) | θs θr, hm, σ |
FX | Fredlund and Xing | \(S_e = \biggl[ \dfrac{1}{\ln \left[e+(h / a)^n \right]} \biggr]^m\) | θs θr, a, m, n |
SWRC Fit のサンプルデータ clay loam (UNSODA 3033) から得られた土壌水分保持曲線(SWRC)を示す。θsとθrを含むすべてのデータを最適化した。最適化されたパラメータ、決定係数(R2)、AICの一覧表はサンプルデータから計算を実行することで見ることができる。
線形和水分保持関数は基本モデルをサブ関数Si(h)としてその線形和で定義される (Seki et al., 2022; 関ら, 2021)。 \[ S(h) = \Sigma_{i=1}^k w_i S_i(h) \] k はサブ関数の数、wi は重み係数で 0<wi<1, Σwi = 1 である。 ユニモーダルモデルは k=1 バイモーダルモデルは k=2 である。
線形和モデルはサブ関数の番号を下付き文字で表記することであらわす。たとえば、VG1BC2モデルはVGサブ関数を S1(h)、BCサブ関数をS2(h)とする。BC1BC2BC3... のような同じサブ関数の組み合わせは multi-BC モデルのように表記して multi-モデルと呼ぶ。multi-VG モデルは Durner (1994) のモデルと同じで、 multi-KO モデルは Seki (2007) と同じである。2つの同じ関数を組み合わせた multi-モデルは dual-モデルであり、たとえば dual-BC は BC1BC2 である。
このようにバイモーダルモデルにはいくつかの組み合わせが考えられるが、SWRC Fit では以下のモデルが実装されている。
モデル | 式 | パラメータ |
dual-BC | \(S_e = \begin{cases}w_1 \left(h / h_{b_1}\right)^{-\lambda_1} + (1-w_1)\left(h / h_{b_2}\right)^{-\lambda_2} & (h>h_{b_2}) \\ w_1 \left(h / h_{b_1}\right)^{-\lambda_1} + 1-w_1 & (h_{b_1} < h \le h_{b_2}) \\1 & (h \le h_{b_1})\end{cases}\) | θs θr, w1, hb1, λ1, hb2, λ2 |
dual-VG | \(\begin{eqnarray}S_e &=& w_1\bigl[1+(\alpha_1 h)^{n_1}\bigr]^{-m_1} + (1-w_1)\bigl[1+(\alpha_2 h)^{n_2}\bigr]^{-m_2}\\m_i&=&1-1/{n_i}\end{eqnarray}\) | θs θr, w1, α1, n1, α2, n2 |
dual-KO | \(\begin{eqnarray}S_e &=& w_1 Q \biggl[\dfrac{\ln(h/h_{m_1})}{\sigma_1}\biggr] + (1-w_1) Q \biggl[\dfrac{\ln(h/h_{m_2})}{\sigma_2}\biggr]\\Q(x) &=& \mathrm{erfc}(x/\sqrt{2})/2\end{eqnarray}\) | θs θr, w1, hm1, σ1, hm2, σ2 |
特に、日本の土壌では団粒が発達した土壌においてはバイモーダルモデルが有効であり、バイモーダルモデルの回帰には特段の工夫がされている(関ら, 2023)。
サンプルデータ silty loam (UNSODA 2760) のSWRCを示す。上記のバイモーダルモデルと、比較のためにVGモデルを示している。バイモーダルモデルではθr = 0 と固定し、VGモデルではすべてのパラメータを自由変数としている。
Seki et al. (2022) の Figure 1 には、熊本黒ボク土のバイモーダルモデルによるSWRCと透水性曲線が示されている。同じ図は関ら (2021) にも示されている。
BC, VG, KOサブ関数に対する線形和モデルに対する CHモデルが Seki et al. (2022)において \[H = h_{b_i} = \alpha_i^{-1} = h_{m_i} \] と定義されている。この中で、次の関数が SWRC Fit に実装されている。
モデル | 式 | パラメータ |
dual-BC-CH | \(S_e = \begin{cases}w_1 \left(h / h_b\right)^{-\lambda_1} + (1-w_1)\left(h / h_b\right)^{-\lambda_2} & (h>h_b)\\ 1 & (h \le h_b)\end{cases}\) | θs θr, w1, hb, λ1, λ2 |
VG1BC2-CH | \(\begin{eqnarray}S_e &=& \begin{cases}w_1 S_1 + (1-w_1)\left(h/H\right)^{-\lambda_2} & (h>H)\\ w_1 S_1 + 1-w_1 & (h \le H)\end{cases}\\S_1 &=& \bigl[1+(h/H)^{n_1}\bigr]^{-{m_1}} ~~ (m_1=1-1/{n_1})\end{eqnarray}\) | θs θr, w1, H, n1, λ2 |
dual-VG-CH | \(\begin{eqnarray}S_e &=& w_1\bigl[1+(\alpha h)^{n_1}\bigr]^{-m_1} + (1-w_1)\bigl[1+(\alpha h)^{n_2}\bigr]^{-m_2}\\m_i&=&1-1/{n_i}\end{eqnarray}\) | θs θr, w1, α, n1, n2 |
KO1BC2-CH | \(\begin{eqnarray}S_e &=& \begin{cases}w_1 S_1 + (1-w_1)\left(h/H\right)^{-\lambda_2} & (h>H)\\ w_1 S_1 + 1-w_1 & (h \le H)\end{cases}\\S_1 &=& Q \biggl[\dfrac{\ln(h/h_m)}{\sigma_1}\biggr], Q(x) = \mathrm{erfc}(x/\sqrt{2})/2\end{eqnarray}\) | θs θr, w1, H, σ1, λ2 |
サンプルデータ sand (UNSODA 4440) のSWRCを示す。上記のCHモデルと、比較のためにVGモデルを示している。CHモデルではθr = 0 と固定し、VGモデルではすべてのパラメータを自由変数としている。VGモデルではθr=0.074と最適化された。
Seki et al. (2022) の Figure 2 には、浜岡砂丘砂のCHモデルによるSWRCと透水性曲線が示されている。同じ図は関ら (2021) にも示されている。
FX モデル以外のモデルに対しては、一般化Mualem式による不飽和透水係数の閉形式解が得られている (Seki et al., 2022; 関ら, 2021; 関・取出, 2023)。それが実用的な式であることはSeki et al. (2023)が示している。unsatfitによって透水性関数のフィッティングが可能である。
SWRC Fit の旧バージョンでは、KOモデルをLNモデル、dual-VGモデルをDBモデル、dual-KOモデルBLモデルと表記していたが、Seki et al. (2022) の表記にあわせて変更した。
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著者: 関 勝寿