ダブルスの戦法

私がテニスを始めた頃、読んだ本のダブルス戦法を解説した部分を以下載せます。非常にいいことが書いてあり、しかもユーモアにあふれた表現が随所にあり楽しく読めました。冒頭サマリーは、前から載せてはありましたが、最近はスキャナで読むことができますので、ダブルスの戦法全文を以下掲載します。

(冒頭サマリーはかって(1995年6月)三菱大船テニス部(MOT)のメーリングリストに、投稿しました。) 原文は以下のものです。

VIC BREDEN'S TENNIS FOR FUTURE (1977年版)
(和訳題:ヴィックブレーデンのテニスクリニック
宮城黎子/潮江信彦訳、講談社)
10. ダブルスから学ぶ (Making Sense out of Doubles)

 ダブルスをやっても楽しくなければ、新しいパートナーを見つけるか、違った相手を探すか、あるいは自分がしりごみしているのではないか反省してごらんなさい。ダブルスは、戦略と動き方の要点を学んでプレーすれば、非常にすばらしい経験をすることのできるゲームである。皆が自分の方へボールが来るのを待ってぼんやりつっ立っているような、のんびりした退屈なゲームではない。
   いいダブルスでは、居眠りしている余裕はない。
走りまわり、ボールに届こうとし、予測し、普通のシングルスの場合よりずっと多様なストロークを使って、常に動いていなければならない。いいダブルスがプレーできるようになるには、ボレーを覚えてネット・プレーをし、オーバーヘッドとロブの打ち方、針のアナを通す正確なコントロールでのサービス・リターンの打ち方、相手のショットの予測の仕方、チームとしてパートナーと一体になった動き方を学ぶ必要がある。勝つも負けるパートナーと一緒なのであり、自分のプレーはひどくてパートナーがすばらしいときでも、大いに楽しくあり得るのである。長い間一緒にプレーすれば、自分達よりうまいプレーヤー同志が組んでも、チームワークに欠ける相手だったら、うまくあやつって文字通り彼らを制することができる。

 だれがどこでどのようにプレーすべきかについて話す前に、ダブルスをやるときに覚えておかねばならぬ重要な考え方をあげておこう。

  1. 一流の試合では、相手より先に正しいネット・ポジションを取ることが目標である。相手をこの砦から追い出すことである。ネットを取ったチームが95パーセントのポイントを制するからである。自分のチームがネットを制してもポイントを失なうこともあるが、それは主としてボールを打つ技術が劣るためだ。

  2. 相手に打ち上げさせるように仕向け、あなた方が打ちおろして相手に早目のランチを与えてやるようにしなさい。常にボールを打ち上げている相手に押しまくられることはあり得ないのである。だが、やっとネットにたどりついても、相手が打ちおろしてくればやられてしまうのである。

  3. パートナーと、3〜3.5メートル離れて、前へ、後ろへ、そして横へと、一体になって動くことを学びなさい。

  4. 確実に決められる場合でなければ、常にセンターへ打つようにしなさい。中級のダブルスの神話「アレーに気をつける」にだまされてはいけない。センターに打たなければ、それは頭のいい相手に、自分たちがあまりうまくないことを知らせているようなものだ

  5. ネットに一番近い人が、届く範囲のショットについて優先権を持っているのである。ゲームに勝ちたければ、「センター・ストライプがあるでしょう。そっち側があなたのサイド、こっちは私のサイドですよ。決して私のサイドのボールに手を出さないでください」と試合の前に言うようなパートナーは捨てなさい。

  6. ダブルスで一番いいやり方は、二人ともがネットへ出ていることである。次善の策は、二人ともがベースラインにいることである。最悪のやり方は、一人が前で、一人が後ろにいることであるが、クラブ・テニスでは世界的にこれが一番多いようである。あなたは、「私たちのクラブでは、20年間“一人前、一人後ろ”でやっており、常にそれで成功している」と言うかも知れない。それは本当かも知れないが、だからこそあなたはまだそのクラブでプレーしていて、トーナメント・サーキットには出られないのではなかろうか。あなたはクラブ・テニスのレベルでプレーしており、そのやり方は他のチームも同じやり方でプレーしてくれる限りにおいてのみ成功するのである。相手が同じようにプレーしてくれなければ負けるだろう。一人前、一人後ろの雁行陣は、対角線のショットに対しあなたとパートナーの間に大きなスキを残すだけでなく、相手が二人でネットへ出てきて、あなたのチームのネットにいる人はひどい目にあわされ、体にボールのマークを入れ墨されてしまう。

ポイントを始めるときの位置

●サーバー
 右コート(デュース・コート)からサーブするときは,相手のバックハンド・コーナーに打てる範囲内で,できるだけセンター・ストライプから離れて立ちなさい。ゴンザレスは,センター・ストライプのすぐ横に立っていたが,それは相手のバックハンドに打つことを主目的にしていたからである。左コートからサーブするときは,センター・ストライプからもう少し余計に離れて立ってもよい。

●サーバーのパートナー
 サービス・コートの対角線のまじわる真ん中に立つべきである。多くの初心者や中級プレーヤーは,パートナーのサーブが後頭部に当たることを恐れてこんなにセンター寄りに立つことを嫌うのである。ここで大論争が始まリ,ネットにいる人は振り向いて「ばか,頭へ当てるなんて」と言い,サーバーは「間抜け,最高のサーブをだいなしにしてしまって」と答えることになるのである。当てられるのを恐れるなら,かがみ込んで頭が的にならぬようにしなさい。そうすれば,ボールが当たるのはせいぜいお尻であり,そしてそのサービスがフォールトであることははっきりしている。

●サービス・レシーバー
 プロは,シングルス・サイドライン上か,その近くに立つであろう。そこが,サーバーがフォアハンドのとバックハンドの方ヘレシーバーを走らせられる範囲の中間点だからである。サーバーが,フォアハンドの方にそんなに横までサーブを曲げられないようなら,もっとセンター・ストライプ寄りに立ってもよいのである。

●レシーバーのパートナー
 特別に手が早く,反射が速いプレーヤーはサービスラインのすぐ前に立つべきである。もう少し反射神経が遅い人は,ラインの後ろに立つべきである。どっちにすべきか決められなければ,ライン上に立ちなさい。しかし,ここに立つと,トーナメント・テニスではライン・ジャッジの視野を妨げることになる。


各プレーヤーの基本的役割

●サーバー
 サーバーの最大目標は第1サーブを入れることである。そして深く,できればある程度のぺ一スを持って入れて,レシーバーが攻撃的なリターンをできないようにすることである。次に相手のバックハンド・コーナーに打つようにすることである。バックハンドに入れる利点として,次の諸点をあげることができる。
  1. たいていの人はフォアハンドよりバックハンドの方が弱い。
  2. バックハンドの方がボールが浮きがちなのでボレーやオーバーヘッドで決めやすくなる。
  3. デュース・コートではレシーバーがネットにいる人から離れたところにリターンするには,インサイド・アウトで打たねばならず(体から遠ざかるように打つ),自然な感覚のアウトサイド・インとは逆にしなければならなくなる(しかしながら,サーバーにとってこの利点は左コート,すなわちアドバンテージ・コートでは利用できない。左コートではレシーバーは,ネットについている人から離れた方へ引っ張って打てるのである)。
  4. サーバーの足もとをトップ・スピンでつくためには,レシーバーはボールをずっと前方で打たねばならない。
  5. レシーバーが前方で打たねばならないため,遅れがちになり,そのため普通はアンダー・スピンで返球してくることになる。
 相手のバックハンドを避けてねらうのは次の場合に限るべきである。
  1. 相手のフォアハンドがバックハンドより弱いとき。
  2. 相手がバックハンドで取り過ぎていてフォアハンド側の空きへ打てばエースになる自信があるとき。
  3. コート外へ追い出して,弱いリターンしか返球できなくさせる自信があるとき。相手のフォアハンドヘ“相手にやまをはらせない”ために打つ場合は,彼がすごいエースで仕返ししてこないと推測できる場合に限る。
 シングルスの場合と同様に,サーブして3歩前進し,そして一瞬足を揃えてサービス・リターンに対処し,どっちへでも動けるように構えねばならない。シングルスと違う点は,第1サーブが弱くても前進して,パートナーがすでにネットにいるなら,パートナーと合流せねばならない点である。さもないとパートナーが相手に爆撃をくい,試合が終わるまでに容貌が変わってしまうであろう。もし,第2サーブが子供だましみたいに弱いなら,二人とも下がっていて,それからロブで相手をネットから追いやるように努めるべきである。

●サーバーのパートナー
 サーバーのパートナーはサービス・キープに重要な役割を果たすのである。受身の傍観者であってはならない。第一に,相手が打ってくるのか,ロブしてくるのかを予測するためにレシーバーのラケットを注視することを学ばねばならぬ。ラケットが打点と同じ高さにあれば,通常は打ってくる(急激にラケットを落としてロブに切り換えてくるような才能に恵まれている人はいない)ので,斜め前方に動いてそのショットを途中で取って,ネット近くからボレーできるだろう。相手のラケット・ヘッドが,面が傾けられて,向かってくるボールより下げられていれば,ロブが来るだろうから,向きを変えてすばやく3歩下がるようにすればよいのである。
 第二に,相手のラケットに注意を払いながら,他に心にとどめるべきことは“次のボールは私が打つのだ。どこへ打たれようが,私が打ちに行くのだ”ということである。実際にはボールを打てなかったときにこそ意外に思うべきなのであって,打てたときに驚くようではいけない。ネット・ポストからネット・ポストまでの砦は自分のものであると考えるべきなのである。こういった考え方をすること,あるいはボールを欲張って取り過ぎると非難されることを,きまり悪がることはないのである。ネットにより近くいるのだから,パートナーよりも鋭いボレーが打てる利点がある。しかしこの優位性を得るために,強力なボレーヤーは,常に集中し,前方への第一歩を踏み出す用意をして,できるだけポイントをしめくくることができるようにしているのである。一方,ボレーの弱い人は,決してボールにとびついてやろうと考えないのである。レシーバーがボールを打つまで,自分の構えた場所に根をおろしたままで,それもなるだけなら,サーバーの方ヘボールが行くことを願っているのである。
 サーバーのパートナーもサーバーも攻撃的なプレーをする決意をしていなければならず,あらゆる機会にチームとしてネットにラッシュすべきなのである。もしパートナーがサーブをしてからネットヘ出てきて,あなたと合流してくれなければ,チームが勝ち進むことは大いに制限され,歯科医の請求書だけどんどん来るだろう。毎日あなたは歯からボールの毛を抜いてもらわねばならぬからである。あなたとしては,パートナーを捨てるか,彼がサーブしようとしたらベースラインに戻るかするしか方法がないのである。彼が慣慨して「そこで何をしてるんだ」と言ったら「生きていたいから」と簡明に答えることになるだろう。

●レシーバー
 いいテニスではレシーバーには,二つの主目的がある。

  1. ボールをネットにいる人から遠ざけて打つ。
  2. ラッシュしてくるサーバーの足もとに打つ(サーバーが打ち上げねばならぬようにする)か,コートの空きを大きくするために,サーバーを文字通りできるだけ遠くに動かすように打つ。
 レシーバーがサーバーの足もとに打てれば,サーバーは守備的にプレーしなければならなくなるのだから,レシーバーはパートナーとともにネットヘの攻撃に転じねばならない。「ネットヘ攻めて出て,サーバーがハーフボレーでいいロブを打ったらどうなるのですか」と言う質問を受けるが,私は,「そういうことをやれるプレーヤーは,まだ2,3人しか見たことがありません。それは特異な才能なので,そんなことを心配してネットにつめることをやめてはいけない」と答える。かりに頭上を越してきたら,ダブルスでは,それぞれのプレーヤーが自分の側について,ネットからベースラインまで責任があるという原則を思い出すことである。各プレーヤーが常に自分の頭上を警戒していれば,そのチームは常にロブについて処理できる態勢にあることになる。

●レシーバーのパートナー
 レシーバーが,ネットにいる相手をはずしてリターンできたら,次はすべてのことがレシーバーのパートナーの双肩にかかるのである。レシーバーのパートナーが,相手をよく“読む”ことができ,ボールについて動けることによって,そのチームが有名になれるチャンスが生じる。ボールなしでうまい動きをすることを知っているバスケットボール・プレーヤーを見習うようにすべきなのである。そういう動きに習熟しているので,バスケットボールの選手は,突然パスを渡され,それを入れて2点取るのである。
 ポイントが開始されると,レシーバーのパートナーの第一の義務は,どこヘサーブが着地するかを見て,フォールトだったらそうコールすることである。サーブが入っていたら,すぐ向き直って相手のチームの動きを注視するのである。相手がつめてきて“あっはっは”と大喜びしながらボールを打ちおろそうとラケットを頭の上まで振りかぷってきたら,それはパートナーがどうしようもないリターンをしたのであり,命を守るために後退すべきときである。
 しかしながら,相手のどちらかがかがみ込んでいれば,ボールが上向きに飛んでくるはずで,ボレーを打ちおろすために,ネットヘつめても安全である。そのときこそ相手のハーフボレーでのラケットの動きを見て,得点をかせぐチャンスなのである。ラケット・ヘッドがネットに平行なら,ボレーをしに前方へ跳び込み,ラケット・ヘッドがクロスコートの方を向いていれば,自分のパートナーの範囲に突進するのである。判断をくだそうと思いながら構えた場所に膠着したまま逡巡していないで,本能的に反応することを学びなさい。すぐ次のショットでボールに向かって動くのだと思っていなければならないのである。
 ネットの向こう側のライバルと同様に,レシーバーのパートナーは,自分の方がネット近くにいるのだから,ネット・ポストからネット・ポストまでのボールに優先権があるのである。自分の届く範囲のボールはすべて取る義務があり,予測することとボールにすばやく跳びつくことを学んで,届く範囲を拡げるようにしなければいけない。それはちょうど野球のモーリー・ウイルスが,ピッチャーの動作を“読む”ことによって,一塁べ一スからのリードを段々と長くしていくのと同じである。レシーバーのパートナーの能力を,ボールが取れる範囲の広さによって計る日がくると思うのである。というのは,レシーバーのパートナーは,非常にネット近くから打てるのだから,打ちさえしたら破壊力のあるショットになるからである。
 プレーヤーの多くは,レシーバーのパートナーとしての役割についてあまり考えたことがなく,ましてその個々の段階を分析して考えたことはないのである。これらの義務やその概念を知っているにしても,コートで練習しなければ無意味である。ハーフボレーをよく打つ相手と練習し,ストレートヘ打とうとしているのか,クロスヘ打とうとしているのかを分析するように努め,次に,飛び出して途中でカットする練習をしなさい。こうやってポイントを締めくくることを学べば,ダブルス・プレーヤーとしてのすばらしい将来が約束されるのである。それは,本当に特別な技倆なので,周囲の皆からパートナーとして求められるであろう。
 残念なことに,前述したレシーバーのパートナーの役割は,典型的なクラブ・テニスでは見受けられない。レシーバーのパートナーは,自分のパートナーがサーバーと前へ後ろへとラリーしているのをどちらかがエラーするまで傍観しているだけで,何もすることがないと思っているのである。これが“一人前,一人後ろ”の雁行陣のダブルスの本質であり,サーバーとレシーバーがシングルスをしている間,パートナーはネットをへだてて会話をし,激励しあい,「そこにじっとしていろよ,パーサ」などと話し合っているのである。ネットにいる人は,ただ首が凝リ,顔の片側だけ陽焼けするだけである。そして突然ボールが来ると,構えていないので外へほうり出してしまって「まさかこっちへくると思っていなかった」と言うのである。
 私がこのことを指摘すると皆笑うのだが,いつもだれかが「ちょっと待ってください,ヴィックさん。あなたは,サーブし,攻撃し,ボレーし,ネットでプレーし,ロブで越されたら走って戻れとおっしゃるが,わたしたちは,そんなことを全部なんてやれません。私たちはただ元気でプレーしていれば,それで幸福なんです」と言うのである。
 誤解しないでいただきたい。私は何も“一人が前,一人が後ろ”のダブルスをこきおろしているわけではないのである。あなたのクラブでは皆がそうやってプレーしていて,あなたもそれが非常に楽しいのなら,別に罪悪感を感じることはない。しかし,“一人が前,一人が後ろ”のダブルスは,相手も同じようにプレーすると約束してくれる場合にのみ楽しいのであることを忘れないでほしい。


ダブルスにおける戦術

●ネットを制する
 いいダブルスでは,ネットが戦場である。ネットでポイントが決まるのである。
 障壁に急襲をかけ,砦を接収し,そしてすばらしいロブを打たれてやむを得ざるとき以外は,そこから押し戻されないようにしなさい。プロのテニスでは,ネットを最初に取ったチームが,ほとんどそのポイントを制するのである。そこへ到達してもオーバーヘッドやボレーを失敗するかも知れぬが,しかし根本的にポイントを取る機会は得ているのである。中級プレーヤーもネットを取ることで同じ優位に立つのだが,彼らはエラーが非常に多いために得点するチャンスは五分五分になるのである。そして,初心者がネットヘラッシュした場合は,よりすみやかに失点する結果になるのである。
 中級プレーヤーは「私たちは,ボレーできないので,後ろにとどまってロブを上げ,相手をネットから遠ざけるようにしています」と言うかもしれない。しかし,うまいネット・プレーヤーをやっつけられるほど,ベースラインからうまくロブをあげられるチームはほとんどないことを思い出しなさい。プロたちでさえ,3回続けて深いロブを上げることはできないのである。だから,ネットヘ出ることは,やはり勝つための最善の方法なのである。ただし,そこへ到達するための武器について練習していればの話だが(負ける結果になることではあるが,私は常に初心者にもネットヘ攻撃に出るように奨励している。それは,彼らも終極的にはネットでプレーするようになるべきだからである。しかし初心者のレベルの場合は,ベースラインからプレーしてロブすることだけを習ったら,ネットを取ろうと試みる初心者に勝てることは勝てるのである)。
 シングルスの場合と同様に,ネットを制すべき理由は,ボレーがひどくてもなお得点し得るということである。ボレーでは-----それが自然の傾向なのだが-----ボールを打ちおろすことができ,鋭い角度で打つことができる。小さなつまらぬショットによってでもポイントをしめくくることができる。ネットから遠ざかるほど余計に才能が必要になる。ネットとサービス・ラインの中間からボレーした場合は,ほんのちょっとでも下向きに打ってしまうとボールはネットしてしまう。大勢の中級プレーヤーや初心者がダブルスでよくやっているようにサービスラインからボレーする場合には,ボールを深く入れて,相手と自分との距離を維持するためには,ボールをほとんど持ち上げて打たねばならない(また,ネットヘ近く寄るほどボールの飛行線に近くなるので,あなたをパスできる角度が減ってパスしにくくなるのである)。
 相手がうまいロブであなた方をネットからベースラインまで追いやった場合には,相手は,あなた方の動きに見合うように一歩一歩前へ出てネットを取るはずである。その場合には,すぐロブを上げ返して,砦をもう一度取り戻すように努めるか,あるいはセンターにオーバーヘッドを打ち込んで,すぐにポイントに結びつけるようにすべきである。ロブを上げ返した方が勝算は大きいのだが,たいていの人は,ここでしりごみを始める。「もう1回はるばるネットまで行きたくない。ネットヘ行ったら,相手がまた頭上をロブで越してきてかけ戻らねばならず,そんなに何度も走ったら死んでしまう」と言うのである。しかし,クラブ・プレーヤーは2度は続けてうまいロブを上げられないから,そうはならないのである。相手の2回目のロブは短くなり,簡単なオーバーヘッドを打てるケースが非常に多いものだ。だから,簡単に砦からおめおめ押し出されてしまってはならない。必死に砦を取り戻そうとし,1本のいいロブだけでは追い出すことはできないのだと相手にわからせてやりなさい。
 ネットを取り,ネットを制し,一たん失なってもそれを必死に取り戻す努力こそが,あなた方を偉大なダブルス・チームにしてくれる。ロブを上げ返しても,そのまま後ろにとどまっていれば,あなた方が怖がっているか,あるいはネットを取り戻すには怠け者過ぎるかを相手に示すことになる。相手は,もはや自分のエラー以外には恐れるべきものはないと知って安心してネットの座を占めるだろう。そうなると,ベースラインから勝つための唯一の希望は,すばらしいロブと多大の忍耐力しかなくなり,その上弱いロブを上げそこなうと相手は1日中だってオーバーヘッドを爆発させてきて,ボールの“ケバケバ”を嫌というほど喰う覚悟がいる。

●ケバケバのサンドウィッチの恐怖を克服する
 プレーが開始されるとき,サーバーのパートナーとレシーバーのパートナーの二人は,すでにネットにすばやくつめられるポジションに位置している。二人ともネットで得点するチャンスを虎視眈眈とねらっていなければならないのである。残念ながら大勢のプレーヤーは恐怖感の入りまじった恐慌状態にあって,自分のボレーが弱いことに心理的圧力を感じ,ボールが当たってケガをしないかと恐れているのである。特に,混合ダブルスをやるときの女性は,ケガをしないかと恐れるのである。女性のおヘソめがけて,2,3発強打を見舞っておどかすことが大好きで,スポーツにおいて女性を公平平等に扱うのだという振りをする好戦的排他主義者の男性はたくさんいるものだ。だからこそ,ただ顔をラケットで隠してつっ立ってばかりいないで,女性もネットで攻撃的にプレーすることを学ばねばならぬ。さらに,混合ダブルスの項で指摘するように,ショットが女性に集中されるために,男性ではなく女性こそが,チームを有名にする当事者になることが多いのである
 女性の読者に正直に言わねばならない。女性の多くは一流の仲間入りがしたいのだが,ボールをぶっつけられるのは嫌なのである。しかし両方の条件を満足さすというわけにはいかない。だれかに故意にケバケバのサンドウィッチをくらわせられたくなかったら,そういうことはしないと最初からおたがいに了解し合い,それを皆も承知しているような仲間の関係を樹立しておく必要がある。そうすれば,だれかがぶっつけたりしたら,彼は汚ない奴だと糾弾されるのである。しかし,競技的要素が加わると(たとえば,トーナメントでプレーする場合),情容赦にも限度が生じる。相手に恐怖心をいだかせることは,このゲームでは合法的なのである。テニスを正しくプレーしたければ,ボールの照準を体に合わされる覚悟をし,当たったからといって恐り出さぬようにせねばならない。ボレーを習うか,金切り声を出すかは,あなた次第なのであって,どっちかを選ぶしかない。
 女性がネットでプレーしようと決意した場合でも,恐怖心のために奇妙なことをやってしまうことがある。それは多くの男性にとっても同様なのである。ボレーしようとしてネットヘ走って行ったのに,手でボールを受け取ってしまう人々のことについては前述した。そういう人たちは,とりとめもなく頭の中でいろいろな判断をするが(“このボールは自分に当たるだろう”など),体の方は反応してくれないので,ボールはおでこでバウンドするのである。ネットでプレーするのが本当に怖いなら,私の示唆できることは,ラケットをいつでも動かせるように用意して体の前に保ちなさいということだけである。ボールが頭を目がけてきたら,ラケットを顔の前にし,頭を横へそらしなさい。だが,あわてふためいて顔をよけないでラケットの方をよけてしまったりしないように。それでは,ボールでケガをした上に失点になるのである。

●センターを守る
 プロは常にセンターを守ることの重要性について語り,中級プレーヤーは“アレーに注意を払う”というのを,かねがね面白いことだと思っている。中級プレーヤーは,相手がストレートにパスしてきはしないかと心配しているので,一人はずっと左に寄り,一人は右へ寄っているのである。残念ながら一人足りない。二人の間はトラックが通過できるほど空いている。アレーを守ることに熱心なあまり,ボールがセンターに打たれると,二人は自動的にパートナーの方を向いて「頼む!あなただ」と言うのである。
 いいダブルスでは,通常はセンターへ打つべきであり,それには三つの理由がある。

  1. ネット・ポストのところより,センターの方がネットが5.5インチ(約14センチ)低い。
  2. 相手がネットの低いところを通してあなたの方へ返球できる角度を減じる。
  3. 相手が二人で取りにきて,おたがいにラケットをぶつけ合うチャンスがある。
 逆に言えば,常に相手にむずかしくて,パーセンテージの低い外側へのショットを打たせるように誘うべきなのである。プロは,相手がセンターへ動くのが早過ぎたと考えたときか(ポーチに早く出過ぎたなど),相手にあまりセンターを固めさせたくないときにのみアレーに打つのである。

●予測することを学ぶ
 このゲームでは優柔不断な考え方は許されない。相手のショットに本能的に反応し,ボールに対してすぐ動くことを学ばねばならない。普通のレベルのプレーヤーは,それができないようである。
 女子の場合は特にそうなのだが,一つの問題は,サーバーとレシーバーの間にポイントが開始されるのを待つときの構えの姿勢が悪くて,自分を動けなくしてしまっているのである。どっちへでもすぐ動けるように爪先立ちになって構えようとしないで,踵に体重をかけたままお尻を突き出し,ラケットで顔を隠しているのである。眠けが襲うこともしばしばで動こうとするどころではない。ボールがセンターへ来ると,ちらっとそちらを向くだけで,ボールが通り過ぎてから「しまった。取ればよかった」と言うのである。もう一度そばをボールが通っても,やはり動きはしない。そこでようやく彼女は「夫が本当に怒り出しそうだ。次のショットを打たなかったら,私は大馬鹿だ」とつぶやくのである。だのに次のボールが来ると「お願い!」と言ってしまう。
 また,間違った方向に動いてしまうことを死ぬほど恐れるプレーヤーもいる。相手のラケットを注視し,「打ってくるかな,ロブかな」と自問し,反応し得る態勢をとっている。だが,相手が頭上にロブしてきたときに,打ってくると思って前へ動いてしまって格好悪く見えるのが嫌なので,結局どっちへも動かないのである。そして,ボールが頭上を越したとき,気違いみたいに向きを変えて走らねばならなくなるのだが,そのときはすでに遅過ぎるのである。
 判断を誤ることを恐れるなと私は生徒たちに言っている。間違った判断をしたからといって狼狽してはならない。相手だって,自分のボールがどこへ行くのかわからないことだって多いのである。ゲームで大切なことは,楽しみを持つことであり,試してみてある程度のチャンスが得られれば,だんだん正しい反応でプレーできるようになっていくものだ。思い切ってどっちかへ冒険してみることが必要だ。
 サービスライン近くでのあの一瞬の構えをしているときや,サービスラインとネットの中間にいるときには,相手のラケットを注視して,たえず「打ってくるか,ロブか」と自問していなさい。最初は,だれだって,インパクト前にボールがどこへ来るのかを判断するのはむずかしいのである。幸いテニスのボールは丸くて,ラケットがねらった方向へ正しく飛ぷのである。だから,相手のラケット・ヘッドが、上向きに傾いてさえいれば,ボールも上へ行くのだから,ロブを追って下がることができる。ラケットが下を向いて傾いていれば,相手はネットの下に打たざるを得ないのである。ラケット面が垂直でまっすぐに動いていれば,ボールは水平面で飛ぶから,あなたはネットヘつめるべきなのである。相手のラケットをよく観察することが大切であり,相手の体の動きで迷わされてはならない。前もってチャートをつければ,相手が何をしようとするかをよりうまく感知するのに役立つ。

●チームとして一緒に動く
 パートナーとほぽ3〜3.5メートル離れて,ボールの方向にチームとして一体になって動くことができるようになれば,ストレートにしろ,センターにしろ,パスされることはめったになくなる
 たとえば,27フィート(約8.23メートル)の幅であるシングルス・コートさえ,センター・ストライプの自分の打ったショットの側に出て,ボールによってどう動くべきかを知っているプレーヤーをパスするのはむずかしい。まして,36フィート(約11メートル)の幅のダブルス・コートでは,1人が18フィート(約5.5メートル)守ればよいのだから,二人がパートナーとして連繋して動けばこれをパスするのは,はるかにむずかしいのである。
 ボールによって位置を変えることを学びなさい。相手が打ってくれば斜め前方に,ロブに対しては後ろに動くのである。コートの右側にボールを打った場合には,相手の返球の角度の範囲を減ずるために,右側に重点をおくように動きなさい。センターに打った場合には,センターに戻り,左へ打ったときは,左へ動くのである。このように動けば,それでもねらってパスできる相手はほとんどいない。片側へずっと寄ると反対側が全く無防備のままさらされるように感じるかも知れないが,そんな狭いところへ対角線に碓実にボールを打てるプレーヤーはいないのである。
 常に3〜3.5メートルの間隔を保ちなさい。パートナーが位置を変えたのにあなたが動かなければ,相手の返球に対して明らかにスキができるのである。一緒に動くことを練習するとき,二人は目に見えないロープでつながれているのだという感じを持つようにしなさい。本当のロープを使ってはいけません。私は以前,中級のテニスでこの手を試してみたが,一人は東へ,一人は西へとぐいと引いた拍子に二人ともがロープでやけどをしてしまったのである。
 パートナーと声をかけ合って意志疎通をはかるのは,チームとして調和を保って反応しながら動くのに一番いい方法である。ボールに向かって動き出すときに「打ってくるぞ」とか,「ロブだ」とか声をかけ合うことを,二人ともが学ぷぺきである。最初のうちは,少々人前を気にする気持になるのかもしれず,また片方は「打ってくるぞ」と叫び,パートナーは「ロブだ」と叫んで,それぞれ違った方向へ走るようなことも何回かあるだろう。しかし,ある程度の間一諸にプレーすれば,本能的に反応するようになり,相手がボールを打ってくるとき,チームとして動けるようになるだろう。このようなチームワークを上達させるために,パートナーへのアドバイスや指示を大声で叫び合うのを,嫌がってはならない。そのためには意識的な努力が必要である。バスケットボールのプレーヤーは,防御についてチームの仲間に「交替,私はこっちの奴をマークする」と叫ぷことに何のためらいも感じはしない。テニス・プレーヤーは,どういうわけか,何年にもわたって,ポイントが続いている間はパートナーに話さないものだという観念を持ってしまっている。二人ともがおしだまり,それぞれが黙々とシングルスをやっているようなチームを時々見受ける。また,ポイントの合間にさえ戦略的戦術的な話もしないチームは,それぞれがボールにすぱやくとびついて取りに行くことにもあまり責任を感じていないことが多い。それから,一人だけが話していて,もう一人は黙っているチームもあまり期待が持てない。だが,二人ともが叫ぴ合い,ショットを大声で知らせ合うようにすれば,反応の遅いプレーヤーも、打ってくるのかロブなのかを、早く予測しようと真剣に取り組み出すようになる。

●ボールに反応する
 相手が打ってきたボールに対して(どんなボールでもボレーできるすべてのショット),ネットの方へすばやく第一歩を出すべきである。ボールの方から来るまで待ってはならない。ネットヘ近寄れるほど,それだけネットから高いところからボレーできる。ボールは急速に落下し,ネットのテープより下まで落ちてしまうと防御にまわらざるを得なくなり,せいぜい深くボールを返すしか方法がなくなる。ジャック・クレーマーは,スタンドで観戦しているときに,せっかくいいポジションを取りながら躊躇してボールがネットより低いところまで落ちてしまい,それなのに攻撃的にボレーしようとするプレーヤーを見ると,よく頭にきていたものである。ジャックの見てきた限りでは,低いボールをとって攻撃的にボレーして成功するプレーヤーは,テニス史上にもほとんどいなかったのである。
 ロブが上がるのを見たら,向きを変えて3歩下がりなさい。ボールがネットのところに達するより先にサービスラインまで下がれれば,あなた方の頭上をうまくロブで抜ける人はいないはずだ。ロブで返球するにせよ,体の前でオーバーヘッド・スマッシュを打つにせよ,常にいいポジションがとれる。
 前向きのまま足を揃えて後走する(バックペダル)より,肩越しにボールを見て後ろへ走るようにしなさい。その方が速く後ろへ下がれるのである(もしバックペダルの方が好きなら,テストしてみなさい。コートヘ出て,両方の走り方をやってみて,どっちが実際に速いかみてごらんなさい)。その他によく受ける質問は,「後ろを向いて走って行き過ぎてしまったらどうなりますか」ということである。それは特に問題ないのである。オーバーヘッド・スマッシュを打つためには,ボールが体より後ろになってしまうより、前へ踏み込んで打てる方がはるかにいいのである。オーバーヘッドは,サーブを打つのと全く同じように打つのが目標であることを思い出しなさい。
 ロブが来そうだとの徴候を嗅ぎ取りながら,ネットですばやく反応することを恐れてしまうチームがある。相手が自分たちをだまして下がらすためにロブのふリをしてから,水平方向に切り換えて,びしっと打ってくるのではないかと考えるのである。幸い,途切れのない打法で二つのショットを打つことはできないのである。あるやり方でボールを打とうとしながら,全く同じスイングで第二の方法に切り換えようとするのは過大な願望である。やリたければやらせればよいのであって,その結果については安心していられる。

●いいダブルスとは組織だった混乱である
 多くのダブルスでは,プレーの動きはかなりのんびりしたものである。ちっとも動こうとしないで,一定地点に根をおろしていることで安心しているのである。しかし,いいダブルスにおいては,二つのショットがかわされる間,同じ場所にい続けたら,それはとんでもない誤りを犯していることになる。常にパートナーと一体となって,前へ,後ろへ,横へと動き続け,ほとんど自動的にすべてのショットにかかわりあうようにすべきなのである。
 今日のプロ・テニスの水準では,ダブルスのやり方に“神風”型の傾向さえ見られ,レシーブ側のチームは,レシーブ後に盲滅法ネットに突進するのだが,それは後陣にとどまってベースラインから得点しようとしても結局は失点する結果になるからなのである。だから,4人ともがネットでたがいに攻め合うダブルスとなり,“最初に臆病風に取りつかれた方が負ける”のである。すばやい身のこなしと反射神経に頼るボレーの応酬は,非常に混乱して見えるものである。
 しかし,私は,深い位置から得点することは不可能であるとする理論は買わない。“ネットを取る”システムは,本当にしっかリしたストロークを持った二人のプレーヤーからなるチームから,絶えず心理的重圧をかけ続けられるテストを十分に受けた上での結論はまだでていないのである。着実にうまいロブを上げ続け,オーバーヘッド・スマッシュを受けてまたうまくロブしたり,ベースラインの後ろから強烈なグラウンド・スマッシュを打ったりするチームより勝るとは言い切れないのである。もし,こういったベースラインからの武器がなければ,後陣に居続けるのは全くの愚の骨頂だから,それなら“神風”型でいった方がましであろう。


特定のショットに対する優先権と責任

●センターへのショットはだれが優先権を持つのか
 センターへのショットはだれが取るべきかという問題について,世界中の中級プレーヤーはわかっていないようである。そのため二人ともが「私が取る」と言って衝突するか,「お願い」とか「頼んだ」と二人ともが言って,ボールが二人の間を通り抜けて,おたがいに顔を見つめ合うかになる。
 利巧なチームは,試合の前に二つの基本的配慮によってあらかじめこのことを決めておくことができる。その二つの基本的配慮とは,
  1. どっちのプレーヤーの方がネットに近いか,
  2. センターのショットについてどっちのプレーヤーの方が強いか,
の二つである。
 ネットヘついているときは,ネットに近い方のプレーヤーが常に優先権を持っているのである。ネットヘより近いプレーヤーは,パートナーの前へ自由に走り込むべきであり,その方が角度もいいし,ポイントをより早く決められるからなのである。深い位置にいるプレーヤーは,ボレーをエラーする確卒が高いし,鋭い角度のボレーを打つことができない。
 二人がネットから等距離にいる場合は,センター側のポレーが強い方のプレーヤーが打つべさである。フォアハンドになるプレーヤーが自動的にそのショットを打つのではない。パートナーのフォアハンド・ボレーより強いバックハンド・ボレーをする人もいるからである。たとえば,ケン・ローズウォールは,格別にすばらしいバックハンドを持っているので,その邪魔をしようなどと思ってはならない。
 ボールがセンターへ来たときの混乱と躊躇をのがれる最善の方法は,パートナーと5/8〜3/8システムを案出しておくことである。前もって,客観的にネット付近とサービスライン付近でどちらがグラウンド・ストロークがうまいか,ボレーがうまいかを決めなさい。そして,横に並んでいるときには,二人の間の5/8の距離内のショットは,うまい方の人が取るようにする。二人ともひどいボレーしかできないなら,コインを投げて決めなさい。ボレーやグラウンド・ストロークがどちらがうまいかを相談することをやましく感じることはない。それは二人の間のボールを見送ってしまわぬようにするだけでなく,ボールを打ちにいくとき,ちょっとでも臆病になるとボレーが弱くなってしまうもので,それを防止するためなのである。ボールを打つときは全幅の自信を持ってことにあたる必要があり,ラケットをぶっつけあったり,パートナーのラケットで頭をたたかれないかといった心配をしないで,安心してボレーできなければならない。ひとたび混乱が起きると,次にセンターヘボールが来たときに信じられぬほどの恐怖とためらいが生じるので,前もって混乱を排除しておきなさい。

●私の側であなたは何をしているのですか
 「おい,何だって私のボールを取るんだ」と文句を言うことから,テニスでもっともありふれた議論が起きる。“こっちは私のサイド,そっちはあなたのサイド,私のサイドのボールを取るな”というダブルスについての考え方が世界中にひろがっているためにこういった論議が起こるのだが,そういうやり方でプレーしたいパートナーと組んでいるのだったら,試合に勝ちたければそのパートナーを早く捨てた方がいい。パートナーがお母さんなら,ネットに近いプレーヤーが優先権を持っていることをわかってもらうようにしなさい
 近代テニスにおいては,“私のサイド,あなたのサイド”といった観念はない。おたがいに前に後ろにと入れかわり,急上昇,急降下するのである。もし一人が後ろに遅れてしまったら,パートナーに横にとびついてもらって,本来なら自分のボレーになるボールをネットで決めてもらいたいと望むべきなのである。パートナーがネット・ポストからネット・ポストまでボールが取れる限りの範囲内で優先権を持っていることを了解しているべきだ。
 パートナーが自分の前へ走り込んで自分のボールを盗んだからといって,頭にきてはいけない。あなたが調子よくプレーしていれぱ当然到達していなければならない場所で,パートナーはあなたの動きをカバーしながらボレーしているのである。その上,得点するチャンスは,そうしてもらった方が大きいのである。前でボレーを打った方の人が,遅れてしまったパートナーを振り向いて,「早くネットヘ出て自分のボールは自分で打て。こんなのはうんざりだ」と言うべきなのである
 全米選手権のダブルスに12回優勝しているルイーズ・ブラフと組んで南カルフォルニア近辺のトーナメントの混合ダブルスで何回かプレーしたことがあるが,私はそのときに,センターのボールをどう扱うべきかを学んだのである。ルイーズと一緒にプレーし始めの頃は,ルイーズの方が私より第1歩が早く,センターのボレーはいつも彼女が取っていた。彼女の方が私よりうまかったわけだが,いつも目の前をスカートをひるがえして「私が打つわ」と言い,一方私の方は1日中「すばらしい,すばらしい」と賞めてばかリいる。私の自負心は大いに傷つけられたのは当然である。私は文字通り試合の前の毎朝早くにコートヘ出て,自分のボレーを自分で打てるように,ひたすら第1歩を早くする練習をしなければならなかった。
 もう一つ注意しなければならないことは,懸命にセンター・ストライプを越して逆サイドに走ったら,今度はそのサイドがあなたのサイドであり,パートナーは入れ換わる義務がある。逆側に行き出してから,突然“いや,やっぱり行くべきではない”と考えて急いで戻ったりしてはならない。そんなことをしたらパートナーを窮地におとしいれることになる。ボールを取りに行く決意をした以上,責任はあなたにある

●だれがロブを取るか
 ネットにいるときに,頭上をロブで越されたら,パートナーが走って取りにゆくべきであると考えているプレーヤーがいる。これは誤りである。どんな種類のダブルスでも,ボールが頭上に上がった場合には,コートの自分の側についてはネットからベースラインまで自分の責任範囲なのである。自動的にパートナーの方を向いて「お願い」などと言ってはならない。パートナーも同時にあなたに「お願い」と言うことになるかも知れないからである。何らかの理由で,あなたが全くポジションからはずれてしまっている場合以外は後退して自分で打つべきなのである。
 18フィート(約5.5メートル)の広さ,39フィート(約11.9メートル)の長さである自陣コートの縦半面の責任は自分にあるのだと考えなさい。基本的な責任の所在は以上の通りであることから事は始まる。パートナーがこの領域に入り込むべきときは,彼がそのショットについての優先権を握ったときと,あなたがボールにとび込んでバランスの立て直しがまだできていないときだけである。

●左利きはどちら側でプレーすべきか
 この質問を左利きのプレーヤーからよく聞かれる。重要な点は,だれとプレーしているかを理解することである。いつもアレーに打とうとしてくる中級プレーヤーが相手なら,左利きは左側にいるべきであり,そうすれば,両方のアレーをフォアハンドでカバーできる。うまいプレーヤーは常にセンターをついてくるので,左利きは右側でプレーし,センターにフォアハンドを二つ持ってもよい。また,左利きが,右サイドにいれば,バックハンドのサービス・リターンを引っ張ってスイングし,ボールをネットにいる人から遠くへ打つことができる。


負けない秘訣

  1. パートナーのサーブを見ようとしてはならない。危険なばかりでなく,ネットでの自分の反応と動きを悪くするからである。またレシーバーをよく見てさえいれぱサーブがどこに入るかは正確にわかる。
  2. パートナーが,あなたの後からオーバーヘッド・スマッシュを打とうとしているときに振り向いて見ようとしてはならない。パートナーが打ちそこなってケバケバのサンドウィッチをくらうかも知れない。
  3. 事実,パートナーが何をしているかを見る必要はない。パートナーとプレーしているのではないのである。そのかわりに相手を注視することに専念し,相手がどんなショットを打とうとしているのかを感知するように努力しなさい。
  4. あなたがネットについているときに,相手がオーバーヘッドを打とうと腕を回したら,目の前につっ立って相手をだまそうとしたり,返球しようとして馬鹿を見てはいけない。ひどいケガをする可能性が大きいのである。よけるか,あるいは降参のしるしに後ろを向くかするのがあなたの義務なのである。あなたがよけない限り,相手はエラーする危険をおかしてまで,あなたを避けて打つ義務はないのである。あなたが避ければ,相手は当たらないように打つのだが,誤まってあなたに当ててしまったら,相手は手を上げて事故についてあやまるだろう。あなたは,彼の謝意を容認せねばならない。しかし,あなたがぶっつけられて振り向いたとき,彼が手を上げなかったらこれは戦争だ。次にあなたがネット近くのオーバーヘッドを打つときには,相手は一目散に反対方向に逃げて行くだろう。

プレー上のその他の秘訣

  1. ダブルスの苦手な人たちは,パートナーを英雄として崇拝する人か,あるいは従属的な思考をする人である。常に“パートナーが取ってくれるだろう”と考えているのである。勝つチームの一員となりたければ,起こりうるあらゆる状況に対して用意していなければならない。“次のボールは自分が取るのだ”と常に考えているべきなのである。それをパートナーが取れば,それはそれでよいのであるが,もうそのときには,すぐ次のショットを予測していなければならない。

  2. いいダブルスでは,ポイントの結着は非常に早い。ボールが2,3回以上ネットを越すことはまれで,統計的に言っていまプレーするショットが最後のショットになるのであるから,ショットには十分注意を払いなさい。休むことはポイントとポイントの間にできる。

  3. ダブルスでプレーしているのだからという理由だけで,いいボレーのフォームを忘れてはならない。前肩の前で打つことができるように練習しなさい。ボールを打ちにいくときラケット・ヘッドを高く保ち,またボールを切りおろすことのないようにフォロースルーが高く終わるようにしなさい。ダブルスでは,特に速いボレーの応酬ではそうなのだが,ボレーがネットして終わることが多い。それは心理的重圧がかかると,正面を向いたままで下向きに打ちがちになってしまい,ネットに対して横向きになってボールを打ちつらぬき,ボールを深く入れようとしないからなのである。鋭い角度で決めようとするときでも,ラケット・ヘッドだけを小手先で扱ってはならない。さもないとボールはネットするか,あるいはサイドラインを割ってしまうだろう。コートのどこヘボレーするにせよ,打つときには常に攻撃的であるように努めなさい。
     全くの初心者の場合も,試合の半分はネットにいるのだから,ダブルスではボレーがきわめて重要である。ボレーはうまいがグラウンド・ストロークは弱いプレーヤーもおり,いいグラウンド・ストロークを身につけることがいいボレーに必ずしもつながりはしないし,グラウンド・ストロークから練習しなければならないということもないのである。

  4. 自分の責任について熟慮し,それについて練習しなさい。それを胸の中にしっかり染み込ませ,プレ一の間にあらためて考える必要をなくしなさい。ダブルスで重要なことがらについて練習を要するのに,大概の人たちが「練習する時間がない。そのことは家で考えて,試合の中でやるようにします」と言うのである。コートで前もって練習しなければ,試合でそれをうまくやり遂げられはしない。新しく学んだ技術を,大試合をプレーしているときに初めてやろうとするようでは,組んでくれるパートナーもいなくなる。
     誤解しないでもらいたい。プレー中に試してみて失敗することを恐れるべきではない。どの試合からも何かを学ぶべきなのである。心に何らかの目標を持った練習期間をつくりなさい。たとえば“今日は,センターのボールを取る練習をし,そしてネットヘつめるように努めよう。足を動かし続けるようにしよう。相手のショットを予想することを練習しよう。ボールを打つときに目をボールから離さないようにし,相手を見ないようにしよう。第1サーブを入れて,パートナーがヘルメットをかぷらなくてもよいようにしよう”といったようにである。

  5. 心理的には,常にパートナーに嫌な思いをさせないで気持よくさせるようにして,彼の心理状態を高揚さすように努めなさい。パートナーはマゾヒストではないだろうし,望むべくば,あなたもサディストではないであろう。偉大なプレーヤーは常にパートナーに積極的に話しかけようとするものである。彼らはおたがいに尊敬しあっており,自分たちはチームとして勝ったリ負けたりするのだと知っている。確かに,パートナーが不調だったり,大事なショットをほおり出したりするのはイライラすることだが,一人が自分のチームの弱点になっていると感じだして,絶えずその事ばかり思うようになると,もうその人は何も正しいことができなくなるのである。
     テニスは楽しみであるとすれば,だれもみじめな気持になるべきではない。だから,パートナーがあなたをいつも嫌な気持にし,あなたの楽しみをぷちこわしてしまうようだったり,その逆の立場だったりしたら,そのパートナーを捨てるか,あるいは彼にあなたよりもっと性分の合うパートナーを見つける機会を与えてあげなさい。「なるほど,だけどそうはできないのです。パートナーは夫なのです」と言うなら,二人とも,もっと現実的になるように努力しなさい。おたがいの長所,短所を明快に理解し合っていれば,二人の間に敵対心が芽生えることを防げるものなのです。

ポーチ

 ポーチとは,パートナーの範囲に意図的に入って行くことで,通常はパートナーのサーブであなたがネットにいるとき行なう。ポーチによりパートナーの方向へ打たれた相手のリターンを途中で横取リできるのである。ボールが,自分が守っていた側に打たれれば,パートナーが入れ換って動いてプレーする。ポーチの第二の目的は動くことによってレシーバーを迷わせてエラーをさせることにある。
 たいていの人は,ポーチがどれほど価値があり,面白いものであるかわかっていない。ポーチは,戦略上三つの重要な要素をつけ加えてくれるのである。すなわち
  1. 外的な刺激を増してやることによって,相手が大切な基本,たとえば“ボールから目を離さない”とか“インパクトの間は頭を下げておく”とかいった点に注意を集中することを妨げる。
  2. ポーチをすることにより,あなた方のチームはただちに攻撃的なチームになる。
  3. ポーチしたり,ポーチするフリをしたりすることがうまければ,自分の思う方向へ相手に打たせて,文字通り相手を手玉にとることができる。
 かりに相手がネット・ラッシュしてくるパートナーの足もとに常にリターンし,あなたのパートナーはかがみ込んで,弱いハーフボレーばかり打たされているとしよう。こうなると,相手はネットにいるあなためがけて強烈に打ち込むことができる。いつもそんなひどい目にあってばかりいることにあきあきすれば,ポーチによって報復してやろうということになる。
 前もって,パートナーと手によるシグナルを決めておき,第1サーブの直前に,背中に隠した手でシグナルを出すのである。秘密のシグナルはいろいろあるが,普通は,指を1本出せば,第1サーブのときだけポーチに出る,指2本なら,第2サーブのときだけ出る,握りこぷしは,どっちのサーブでもポーチに出ない,そして手のヒラを開けば,「われわれは11年間も組んできており,いままでは私は何もはなばなしいことをしなかった。が,今度はどんなサーブであろうがポーチに出る」という意味にするのである。
 ポーチをするときによく生じる二つの問題点は,一緒にプレーして経験を積めば克服できるだろう。問題点の一つは,シグナルを懸命に出しているのに,パートナーは自分のサーブのことで頭が一杯でシグナルなんか見ていないということである。第二は,ポーチの意図は隠しておかねばならぬということを忘れてしまう人がいる点である。シグナルを背中に出したまま後ろ向きになって,「パーサ,シグナルがわかったかい」などと言う。
 シグナルがうまく合えば,パートナーのサーブがネットを越した瞬間に,あなたはセンター・ストライプを越えて相手のリターンを取りにいく。あなたのパートナーは,あなたがいた範囲をカバーすべくラッシュする。しかし,ポーチするために動き出す前に,レシーバーがあなたの望む方向に打とうとしていることを確認しなさい。サーブがネットを越したときに動き出しても,実際にはレシーバーがまだ打つ方向を変えられるだけの時間の余裕があるかも知れないからだ。
 同じことがサーバーについてもいえる。レシーバーの直接的視線,周辺的視野から自分がはずれ,レシーバーがスイングの方向を変えるにはもう遅いという時点までは,向きを変えてコートの反対側に走るのを待たねばならない。フォロースルー後,2,3歩前方へ出て,それからクロスコートに走る。反対側に行くことに熱心過ぎて1歩だけ前へ出て,すぐクロスに向きを変えたりすると,ポーチであることを教えてしまうことになる。
 レシーバーはポーチを見破ったらあわてる必要はない。ネットにいた人が空けた場所(サーバーがラッシュしてくる場所)に,かなり緩いリターンを打ってもよいし,相手は二人とも動いていて具合いの悪いポジションにいるのだから,ロブを上げてもいい。ポーチの真価は,レシーバーがかりにポーチを“読んでも”,そのことであれこれ悩まされるためにエラーがでがちになる点にある。同様に,ポーチに出てそれがエラーになるかも知れないが,先々のショットについて相手の心配をかきたてる利点がある。いつもネットにへばりついているばかりでなく,常にポーチするぞと相手を脅かすことにより,チームとしての力を無限に向上させることができる。まず第一に,ボールに必ず目の焦点を合わせておける人の少ないテニスのようなスポーツでは,相手の気を散らしてあなたの方を見させることができれぱ,相手は対処しなければならぬ刺激の数が増すために,あなたの方が勝つチャンスがそれだけふえるのである。だが,あなたが1938年以来相かわらずのネットでの構えの姿勢を取り続けるならば,ポーチはないのだと相手は知っているので,相手の懸念を減らしてやっていることになる
 ポーチを効果的にやれるようになれば,相手を頭脳的にいかにうまくあやつることができるかがわかるだろう。自分が打ってもらいたいところに相手に打たせることができ,さらに相手が混乱させてちょっと膝や肩の動きでだますだけで,相手はラケットを落としてしまうぐらい脅やかすことさえできる。しかし,ポーチのやり方を学ぷには練習が必要である。一試合全部のポイント,あるいは偶数ポイントだけや奇数ポイントだけポーチをやってみれば,どれほど多くのボールが打てるものであるかに,またどれほど面白いものかにびっくりすることだろう。
 ポーチがあるとわかったときの防御方法は,ロブするか,入れかわりつつある二人のセンターをつくか,あるいはポーチに動いた人のあとのアレーに打つかである。しかし,こうと決めたショットを完遂するようにし,突然決定を変更したりしてはならない。相手がポーチしようとしてどこまで出たら,相手がいた場所に打って,相手を傷つけられるかを知るようにしなさい。私は,相手のポーチを予測する場合,相手の顔や肩の動きには,目を向けないのである。見せかけの可能性があるからだ。私はベルトのバックルを見るのだが,それは男はショーツなしでは走らないからである。女性がポーチしてくる場合は,衣服の別の部分を見つけるのである。

ミックスト・ダブルス

 混合ダブルスをプレーする女性がボレーができれば,パートナーを有名にしてあげることができる。ただし男性であるパートナーの自我の妨害がなければの話だが。
 典型的な夫婦のチームでは,夫がサーブする際にはどうなるかというと,夫は妻をネットのところへ連れていき,「ねえ,今日は大事な試合だろう。もし勝てぱ,私たちはピサモ・ビーチの王様と女王様だ。君の役割はとても大切だし,君はボレーもうまいから,この一番大切な場所にいてもらおうと思うんだよ」と言って,ネットのすぐ前,アレーの中の4フィート(約1.2メートル)の仕切リを示すのである。夫は,歩み去りながら,「ラケットで顔を隠しておくのを忘れるんしゃないよ」とも言う。潜在意識的に夫が彼女に本当に言いたかったことは「見てろ,私一人でプレーできるんだ。できることなら君をベンチにおきたいんだが,それでは隣近所の手前もあるし」ということであろう。
 女性よ。パートナーのこんな考え方にだまされてはいけない。どれほど長い間にわたって,女性は弱いプレーヤーであるとか,ネットにいるときはたいして役に立たないとか聞かされてきたにせよ,そんなことはないのである。私を信じなさい。事実は,女性はチームにとって男性よりもはるかに重要なのである。男はコート中を走りまわってすべてのポイントを救ってあなたを有名にしてやろうと思っているが,面白いことが起きるのである。あなたがあらゆるショットを取っているのに,彼の方は息が切れてくるのである。女性がボレーでき,ネットですばやく反応でき,そして自分が優先権を持つショットに対しては,センター・ストライプを越して取りにいくことに何のためらいも感じないでプレーできたら,相手チームにすばらしい圧力をかけることができる。そうなると,相手はあなたを動けなくしておいてから,あなたのパートナーを地べ夕にへたりこますほど走らせることはできないので,あなたのチームをチームとして扱わなければならなくなる。
 女性方よ,男性に言われるがままに脇へよけて,自分のショットを取りに動くのを恐れ,ただ優雅な構えの姿勢でコートに根をおろし,銃眼でも覗くみたいにラケットで顔を隠しているばかりなのはやめなさい。ボレーはパートナーまかせというのでは,いいミックスト・ダブルスの試合では勝てないのである。テニスというゲームの真髄は,どちらのプレーヤーであろうが,ネットに近いプレーヤーが優先権を持つという,基本的原則に基づいてプレーするところにある。だから,男性であるパートナーよりいいポジションを取り,すばやくあるなら,男性の前へとび込んで,彼のボレーを取りにいきなさい。「君は女なんだから,自分の側にいなさい」,などという言葉にしりごみするのは,まさにすぐ負けることになる症候群なのである。彼の本心は「気をつけなさい。私の側へ近づくほど,負けるチャンスが大きくなるんだよ」という意味なのである。
 もちろん,男性と並んで頑張るには,女性は,ボレー,すばやい反射,ネットでの恐怖の克服の三つを学ぱねばならず,この三つの必要条件は密接に相互に関連している。適切なボレーで自分を防御し,攻撃することを学ぷまでは,本能的に反射する自信も持てないし,ネットヘつめたり,パッシング・ショットにとびついたり,ロブに後退したりもできないだろう。ボレーができれば,すばやい反射を妨げている心理的動揺に対処する上にも役立つ。テニスは,男と女がともに競技てきる数少ないスポーツの一つてある-----必ずしもいつも仲睦まじくとはいかないが。肉体的な力の面で,多くの男性は、常に女性の方のショットまで取ろうとしたかるし,盲目的に好戦的な相手は,潜在的な敵意を持って,あなたに新しいヘソをつけようとボールを、ぶつけてくるものだ。だから,ボールに当たりはしないかと恐れるのも当然である。ボールに当たらぬようによけるのはあなたの責任なのだか,それよりもボレーが強力であることが五分にわたり合うための最善の方法なのである。
 バックハンド・ボレーを強く,深く打てるようにするためには,利き腕の伸筋を強化することが必要である(107ぺ一ジの練習方法を参照)。利巧な相手だったら,すぐあなたのバックに高いボールを送って,あなたの力をテストするだろう。腕の力が弱ければ,ボールは短くなり,相手に簡単な決め球を与えることになる。だが,あなたがそのボールをラケット・ヘッドを高くして“力強く”,深くボレーしてやれば,相手はこれはなかなかやっかいだということを知る。

●ボジション
 コートのサイドを決める段になると,男性は別の神話を不朽のものとしたがる傾向がある。男性は二つのサイドのうち,やさしい方を女性にやらせてやると言って彼女を納得させるという不公正な役割を演しる。二人ともが右利きだったら,彼は「いいかい,君にレシーブのしやすい右サイドをやらしてあげるよ。僕はむずかしい左サイドをやる」と言うだろう。これは嘘であるが,女性はこの言葉にだまされる。右コートでプレーすると,いいテニスの場合は特にそうなのだが,非常にむずかしいことになるのである。彼女は決まってバックハンドでレシーブさせられ,ネットにいる人の届かぬところにボールを打つにはインサイド・アウトに打たねばならない。しかし,パートナーはそういうふうには考えてくれない。
 プレーが始まり,相手側のチームが,彼女のバックハンドにサーブするとしよう。ほとんどだれでもそうなのだが,バックハンドでは引っ張りがちになるもので,彼女とて例外ではない。彼女のショットはネットにいる相手の男性のところにいってしまい,彼女の夫はケバケバのサンドウィッチをご馳走になってしまうのである。夫は振り向いて「ばか!私は15年間もネットにいる相手に届かぬようにリターンしろと.いってきたじゃないか。さあよく見てなさい。どうやったらいいのか見せてあげるから」と言う。夫はレシーブをしに戻り,ボールはバックハンドに入ってきて,彼女と全く同じやり方でスイングするのである。違っている点は,彼が引っ張ってスイングするとボールはネットにいる人からはなれて遠く飛び,サーバーのところにいくだけだ。男性が偉大に見えるのは,たまたま彼が,弱点でもいいショットの打ちやすいサイドにいるからに過ぎないのである。だから女性たちよ,男性のこんなペテンにひっかかったままでいてはならない。テニス史上での偉大なダブルス・チームは,レシーブのうまい右コートのプレーヤーによって生まれてきたということを銘記しなさい。30オールとかデュースは心理的圧力のかかるポイントであり,もし女性がここでサーブをうまく返球して得点するのに貢献できれば,心理的圧力のすべては,サーブをキープしなければならぬサーバーに移り,そして彼女のパートナーはリラックスできるのである。
 クラブ・テニスでは,女性が相当のバックハンドを持っているなら,彼女に右コートでプレーさせるのはそれだけの価値がある(ただし彼女のパートナーが前述のような事情がわかっていればの話である)。第一に,男性にとって左から右にポーチする方がやりやすい。第二に,男性がパートナーの頭上を越すロブを左から右に追いかけて打ちにいける(理想的には,各人が自分の側についてはネットからベースラインまでカバーすべきだが,現実にはたいていの女性はロブを追って後退するのが遅いのである)。第三に,男がセンターのボールをフォアハンド・ボレーで打てるので伸筋の弱い女性がバックハンドのハイボレーで攻撃しにくい点をカバーできるのである。
 男性が専横に女性に右コートを押しつけると,さいわいにしてその日の終わりには帳尻があって五分五分になり,釣合いがとれる仕組みになっている。彼女のサーブのとき,男はネットでポーチするのが好きで多くのポイントをかせいでくれて,おかげでサーブをキープする。しかるに男のサーブのとき,女性は通例ボレーが好きでなくポーチすることを恐れているので,サーブはたいていキープできない。さて夫婦はわが家への車のなかで,今日の責任について大論争を展開するのであるが,女性は,すぐに夫の気力をそぎ,がっくりさせることができる。「私のせいにしないでよ。私はサーブを全部キープしたわ」と言うのである。

**** 10. ダブルスから学ぶ (Making Sense out of Doubles) 終わり ****

最後までお読み頂きまして、有難うございました。