私がテニスを始めた頃、読んだ本のダブルス戦法を解説した部分を以下載せます。非常にいいことが書いてあり、しかもユーモアにあふれた表現が随所にあり楽しく読めました。冒頭サマリーは、前から載せてはありましたが、最近はスキャナで読むことができますので、ダブルスの戦法全文を以下掲載します。
(冒頭サマリーはかって(1995年6月)三菱大船テニス部(MOT)のメーリングリストに、投稿しました。) 原文は以下のものです。
だれがどこでどのようにプレーすべきかについて話す前に、ダブルスをやるときに覚えておかねばならぬ重要な考え方をあげておこう。
●サーバーのパートナー
サービス・コートの対角線のまじわる真ん中に立つべきである。多くの初心者や中級プレーヤーは,パートナーのサーブが後頭部に当たることを恐れてこんなにセンター寄りに立つことを嫌うのである。ここで大論争が始まリ,ネットにいる人は振り向いて「ばか,頭へ当てるなんて」と言い,サーバーは「間抜け,最高のサーブをだいなしにしてしまって」と答えることになるのである。当てられるのを恐れるなら,かがみ込んで頭が的にならぬようにしなさい。そうすれば,ボールが当たるのはせいぜいお尻であり,そしてそのサービスがフォールトであることははっきりしている。
●サービス・レシーバー
プロは,シングルス・サイドライン上か,その近くに立つであろう。そこが,サーバーがフォアハンドのとバックハンドの方ヘレシーバーを走らせられる範囲の中間点だからである。サーバーが,フォアハンドの方にそんなに横までサーブを曲げられないようなら,もっとセンター・ストライプ寄りに立ってもよいのである。
●レシーバーのパートナー
特別に手が早く,反射が速いプレーヤーはサービスラインのすぐ前に立つべきである。もう少し反射神経が遅い人は,ラインの後ろに立つべきである。どっちにすべきか決められなければ,ライン上に立ちなさい。しかし,ここに立つと,トーナメント・テニスではライン・ジャッジの視野を妨げることになる。
●サーバーのパートナー
サーバーのパートナーはサービス・キープに重要な役割を果たすのである。受身の傍観者であってはならない。第一に,相手が打ってくるのか,ロブしてくるのかを予測するためにレシーバーのラケットを注視することを学ばねばならぬ。ラケットが打点と同じ高さにあれば,通常は打ってくる(急激にラケットを落としてロブに切り換えてくるような才能に恵まれている人はいない)ので,斜め前方に動いてそのショットを途中で取って,ネット近くからボレーできるだろう。相手のラケット・ヘッドが,面が傾けられて,向かってくるボールより下げられていれば,ロブが来るだろうから,向きを変えてすばやく3歩下がるようにすればよいのである。
第二に,相手のラケットに注意を払いながら,他に心にとどめるべきことは“次のボールは私が打つのだ。どこへ打たれようが,私が打ちに行くのだ”ということである。実際にはボールを打てなかったときにこそ意外に思うべきなのであって,打てたときに驚くようではいけない。ネット・ポストからネット・ポストまでの砦は自分のものであると考えるべきなのである。こういった考え方をすること,あるいはボールを欲張って取り過ぎると非難されることを,きまり悪がることはないのである。ネットにより近くいるのだから,パートナーよりも鋭いボレーが打てる利点がある。しかしこの優位性を得るために,強力なボレーヤーは,常に集中し,前方への第一歩を踏み出す用意をして,できるだけポイントをしめくくることができるようにしているのである。一方,ボレーの弱い人は,決してボールにとびついてやろうと考えないのである。レシーバーがボールを打つまで,自分の構えた場所に根をおろしたままで,それもなるだけなら,サーバーの方ヘボールが行くことを願っているのである。
サーバーのパートナーもサーバーも攻撃的なプレーをする決意をしていなければならず,あらゆる機会にチームとしてネットにラッシュすべきなのである。もしパートナーがサーブをしてからネットヘ出てきて,あなたと合流してくれなければ,チームが勝ち進むことは大いに制限され,歯科医の請求書だけどんどん来るだろう。毎日あなたは歯からボールの毛を抜いてもらわねばならぬからである。あなたとしては,パートナーを捨てるか,彼がサーブしようとしたらベースラインに戻るかするしか方法がないのである。彼が慣慨して「そこで何をしてるんだ」と言ったら「生きていたいから」と簡明に答えることになるだろう。
●レシーバー
いいテニスではレシーバーには,二つの主目的がある。
●レシーバーのパートナー
レシーバーが,ネットにいる相手をはずしてリターンできたら,次はすべてのことがレシーバーのパートナーの双肩にかかるのである。レシーバーのパートナーが,相手をよく“読む”ことができ,ボールについて動けることによって,そのチームが有名になれるチャンスが生じる。ボールなしでうまい動きをすることを知っているバスケットボール・プレーヤーを見習うようにすべきなのである。そういう動きに習熟しているので,バスケットボールの選手は,突然パスを渡され,それを入れて2点取るのである。
ポイントが開始されると,レシーバーのパートナーの第一の義務は,どこヘサーブが着地するかを見て,フォールトだったらそうコールすることである。サーブが入っていたら,すぐ向き直って相手のチームの動きを注視するのである。相手がつめてきて“あっはっは”と大喜びしながらボールを打ちおろそうとラケットを頭の上まで振りかぷってきたら,それはパートナーがどうしようもないリターンをしたのであり,命を守るために後退すべきときである。
しかしながら,相手のどちらかがかがみ込んでいれば,ボールが上向きに飛んでくるはずで,ボレーを打ちおろすために,ネットヘつめても安全である。そのときこそ相手のハーフボレーでのラケットの動きを見て,得点をかせぐチャンスなのである。ラケット・ヘッドがネットに平行なら,ボレーをしに前方へ跳び込み,ラケット・ヘッドがクロスコートの方を向いていれば,自分のパートナーの範囲に突進するのである。判断をくだそうと思いながら構えた場所に膠着したまま逡巡していないで,本能的に反応することを学びなさい。すぐ次のショットでボールに向かって動くのだと思っていなければならないのである。
ネットの向こう側のライバルと同様に,レシーバーのパートナーは,自分の方がネット近くにいるのだから,ネット・ポストからネット・ポストまでのボールに優先権があるのである。自分の届く範囲のボールはすべて取る義務があり,予測することとボールにすばやく跳びつくことを学んで,届く範囲を拡げるようにしなければいけない。それはちょうど野球のモーリー・ウイルスが,ピッチャーの動作を“読む”ことによって,一塁べ一スからのリードを段々と長くしていくのと同じである。レシーバーのパートナーの能力を,ボールが取れる範囲の広さによって計る日がくると思うのである。というのは,レシーバーのパートナーは,非常にネット近くから打てるのだから,打ちさえしたら破壊力のあるショットになるからである。
プレーヤーの多くは,レシーバーのパートナーとしての役割についてあまり考えたことがなく,ましてその個々の段階を分析して考えたことはないのである。これらの義務やその概念を知っているにしても,コートで練習しなければ無意味である。ハーフボレーをよく打つ相手と練習し,ストレートヘ打とうとしているのか,クロスヘ打とうとしているのかを分析するように努め,次に,飛び出して途中でカットする練習をしなさい。こうやってポイントを締めくくることを学べば,ダブルス・プレーヤーとしてのすばらしい将来が約束されるのである。それは,本当に特別な技倆なので,周囲の皆からパートナーとして求められるであろう。
残念なことに,前述したレシーバーのパートナーの役割は,典型的なクラブ・テニスでは見受けられない。レシーバーのパートナーは,自分のパートナーがサーバーと前へ後ろへとラリーしているのをどちらかがエラーするまで傍観しているだけで,何もすることがないと思っているのである。これが“一人前,一人後ろ”の雁行陣のダブルスの本質であり,サーバーとレシーバーがシングルスをしている間,パートナーはネットをへだてて会話をし,激励しあい,「そこにじっとしていろよ,パーサ」などと話し合っているのである。ネットにいる人は,ただ首が凝リ,顔の片側だけ陽焼けするだけである。そして突然ボールが来ると,構えていないので外へほうり出してしまって「まさかこっちへくると思っていなかった」と言うのである。
私がこのことを指摘すると皆笑うのだが,いつもだれかが「ちょっと待ってください,ヴィックさん。あなたは,サーブし,攻撃し,ボレーし,ネットでプレーし,ロブで越されたら走って戻れとおっしゃるが,わたしたちは,そんなことを全部なんてやれません。私たちはただ元気でプレーしていれば,それで幸福なんです」と言うのである。
誤解しないでいただきたい。私は何も“一人が前,一人が後ろ”のダブルスをこきおろしているわけではないのである。あなたのクラブでは皆がそうやってプレーしていて,あなたもそれが非常に楽しいのなら,別に罪悪感を感じることはない。しかし,“一人が前,一人が後ろ”のダブルスは,相手も同じようにプレーすると約束してくれる場合にのみ楽しいのであることを忘れないでほしい。
●ケバケバのサンドウィッチの恐怖を克服する
プレーが開始されるとき,サーバーのパートナーとレシーバーのパートナーの二人は,すでにネットにすばやくつめられるポジションに位置している。二人ともネットで得点するチャンスを虎視眈眈とねらっていなければならないのである。残念ながら大勢のプレーヤーは恐怖感の入りまじった恐慌状態にあって,自分のボレーが弱いことに心理的圧力を感じ,ボールが当たってケガをしないかと恐れているのである。特に,混合ダブルスをやるときの女性は,ケガをしないかと恐れるのである。女性のおヘソめがけて,2,3発強打を見舞っておどかすことが大好きで,スポーツにおいて女性を公平平等に扱うのだという振りをする好戦的排他主義者の男性はたくさんいるものだ。だからこそ,ただ顔をラケットで隠してつっ立ってばかりいないで,女性もネットで攻撃的にプレーすることを学ばねばならぬ。さらに,混合ダブルスの項で指摘するように,ショットが女性に集中されるために,男性ではなく女性こそが,チームを有名にする当事者になることが多いのである。
女性の読者に正直に言わねばならない。女性の多くは一流の仲間入りがしたいのだが,ボールをぶっつけられるのは嫌なのである。しかし両方の条件を満足さすというわけにはいかない。だれかに故意にケバケバのサンドウィッチをくらわせられたくなかったら,そういうことはしないと最初からおたがいに了解し合い,それを皆も承知しているような仲間の関係を樹立しておく必要がある。そうすれば,だれかがぶっつけたりしたら,彼は汚ない奴だと糾弾されるのである。しかし,競技的要素が加わると(たとえば,トーナメントでプレーする場合),情容赦にも限度が生じる。相手に恐怖心をいだかせることは,このゲームでは合法的なのである。テニスを正しくプレーしたければ,ボールの照準を体に合わされる覚悟をし,当たったからといって恐り出さぬようにせねばならない。ボレーを習うか,金切り声を出すかは,あなた次第なのであって,どっちかを選ぶしかない。
女性がネットでプレーしようと決意した場合でも,恐怖心のために奇妙なことをやってしまうことがある。それは多くの男性にとっても同様なのである。ボレーしようとしてネットヘ走って行ったのに,手でボールを受け取ってしまう人々のことについては前述した。そういう人たちは,とりとめもなく頭の中でいろいろな判断をするが(“このボールは自分に当たるだろう”など),体の方は反応してくれないので,ボールはおでこでバウンドするのである。ネットでプレーするのが本当に怖いなら,私の示唆できることは,ラケットをいつでも動かせるように用意して体の前に保ちなさいということだけである。ボールが頭を目がけてきたら,ラケットを顔の前にし,頭を横へそらしなさい。だが,あわてふためいて顔をよけないでラケットの方をよけてしまったりしないように。それでは,ボールでケガをした上に失点になるのである。
●センターを守る
プロは常にセンターを守ることの重要性について語り,中級プレーヤーは“アレーに注意を払う”というのを,かねがね面白いことだと思っている。中級プレーヤーは,相手がストレートにパスしてきはしないかと心配しているので,一人はずっと左に寄り,一人は右へ寄っているのである。残念ながら一人足りない。二人の間はトラックが通過できるほど空いている。アレーを守ることに熱心なあまり,ボールがセンターに打たれると,二人は自動的にパートナーの方を向いて「頼む!あなただ」と言うのである。
いいダブルスでは,通常はセンターへ打つべきであり,それには三つの理由がある。
●予測することを学ぶ
このゲームでは優柔不断な考え方は許されない。相手のショットに本能的に反応し,ボールに対してすぐ動くことを学ばねばならない。普通のレベルのプレーヤーは,それができないようである。
女子の場合は特にそうなのだが,一つの問題は,サーバーとレシーバーの間にポイントが開始されるのを待つときの構えの姿勢が悪くて,自分を動けなくしてしまっているのである。どっちへでもすぐ動けるように爪先立ちになって構えようとしないで,踵に体重をかけたままお尻を突き出し,ラケットで顔を隠しているのである。眠けが襲うこともしばしばで動こうとするどころではない。ボールがセンターへ来ると,ちらっとそちらを向くだけで,ボールが通り過ぎてから「しまった。取ればよかった」と言うのである。もう一度そばをボールが通っても,やはり動きはしない。そこでようやく彼女は「夫が本当に怒り出しそうだ。次のショットを打たなかったら,私は大馬鹿だ」とつぶやくのである。だのに次のボールが来ると「お願い!」と言ってしまう。
また,間違った方向に動いてしまうことを死ぬほど恐れるプレーヤーもいる。相手のラケットを注視し,「打ってくるかな,ロブかな」と自問し,反応し得る態勢をとっている。だが,相手が頭上にロブしてきたときに,打ってくると思って前へ動いてしまって格好悪く見えるのが嫌なので,結局どっちへも動かないのである。そして,ボールが頭上を越したとき,気違いみたいに向きを変えて走らねばならなくなるのだが,そのときはすでに遅過ぎるのである。
判断を誤ることを恐れるなと私は生徒たちに言っている。間違った判断をしたからといって狼狽してはならない。相手だって,自分のボールがどこへ行くのかわからないことだって多いのである。ゲームで大切なことは,楽しみを持つことであり,試してみてある程度のチャンスが得られれば,だんだん正しい反応でプレーできるようになっていくものだ。思い切ってどっちかへ冒険してみることが必要だ。
サービスライン近くでのあの一瞬の構えをしているときや,サービスラインとネットの中間にいるときには,相手のラケットを注視して,たえず「打ってくるか,ロブか」と自問していなさい。最初は,だれだって,インパクト前にボールがどこへ来るのかを判断するのはむずかしいのである。幸いテニスのボールは丸くて,ラケットがねらった方向へ正しく飛ぷのである。だから,相手のラケット・ヘッドが、上向きに傾いてさえいれば,ボールも上へ行くのだから,ロブを追って下がることができる。ラケットが下を向いて傾いていれば,相手はネットの下に打たざるを得ないのである。ラケット面が垂直でまっすぐに動いていれば,ボールは水平面で飛ぶから,あなたはネットヘつめるべきなのである。相手のラケットをよく観察することが大切であり,相手の体の動きで迷わされてはならない。前もってチャートをつければ,相手が何をしようとするかをよりうまく感知するのに役立つ。
●チームとして一緒に動く
パートナーとほぽ3〜3.5メートル離れて,ボールの方向にチームとして一体になって動くことができるようになれば,ストレートにしろ,センターにしろ,パスされることはめったになくなる。
たとえば,27フィート(約8.23メートル)の幅であるシングルス・コートさえ,センター・ストライプの自分の打ったショットの側に出て,ボールによってどう動くべきかを知っているプレーヤーをパスするのはむずかしい。まして,36フィート(約11メートル)の幅のダブルス・コートでは,1人が18フィート(約5.5メートル)守ればよいのだから,二人がパートナーとして連繋して動けばこれをパスするのは,はるかにむずかしいのである。
ボールによって位置を変えることを学びなさい。相手が打ってくれば斜め前方に,ロブに対しては後ろに動くのである。コートの右側にボールを打った場合には,相手の返球の角度の範囲を減ずるために,右側に重点をおくように動きなさい。センターに打った場合には,センターに戻り,左へ打ったときは,左へ動くのである。このように動けば,それでもねらってパスできる相手はほとんどいない。片側へずっと寄ると反対側が全く無防備のままさらされるように感じるかも知れないが,そんな狭いところへ対角線に碓実にボールを打てるプレーヤーはいないのである。
常に3〜3.5メートルの間隔を保ちなさい。パートナーが位置を変えたのにあなたが動かなければ,相手の返球に対して明らかにスキができるのである。一緒に動くことを練習するとき,二人は目に見えないロープでつながれているのだという感じを持つようにしなさい。本当のロープを使ってはいけません。私は以前,中級のテニスでこの手を試してみたが,一人は東へ,一人は西へとぐいと引いた拍子に二人ともがロープでやけどをしてしまったのである。
パートナーと声をかけ合って意志疎通をはかるのは,チームとして調和を保って反応しながら動くのに一番いい方法である。ボールに向かって動き出すときに「打ってくるぞ」とか,「ロブだ」とか声をかけ合うことを,二人ともが学ぷぺきである。最初のうちは,少々人前を気にする気持になるのかもしれず,また片方は「打ってくるぞ」と叫び,パートナーは「ロブだ」と叫んで,それぞれ違った方向へ走るようなことも何回かあるだろう。しかし,ある程度の間一諸にプレーすれば,本能的に反応するようになり,相手がボールを打ってくるとき,チームとして動けるようになるだろう。このようなチームワークを上達させるために,パートナーへのアドバイスや指示を大声で叫び合うのを,嫌がってはならない。そのためには意識的な努力が必要である。バスケットボールのプレーヤーは,防御についてチームの仲間に「交替,私はこっちの奴をマークする」と叫ぷことに何のためらいも感じはしない。テニス・プレーヤーは,どういうわけか,何年にもわたって,ポイントが続いている間はパートナーに話さないものだという観念を持ってしまっている。二人ともがおしだまり,それぞれが黙々とシングルスをやっているようなチームを時々見受ける。また,ポイントの合間にさえ戦略的戦術的な話もしないチームは,それぞれがボールにすぱやくとびついて取りに行くことにもあまり責任を感じていないことが多い。それから,一人だけが話していて,もう一人は黙っているチームもあまり期待が持てない。だが,二人ともが叫ぴ合い,ショットを大声で知らせ合うようにすれば,反応の遅いプレーヤーも、打ってくるのかロブなのかを、早く予測しようと真剣に取り組み出すようになる。
●ボールに反応する
相手が打ってきたボールに対して(どんなボールでもボレーできるすべてのショット),ネットの方へすばやく第一歩を出すべきである。ボールの方から来るまで待ってはならない。ネットヘ近寄れるほど,それだけネットから高いところからボレーできる。ボールは急速に落下し,ネットのテープより下まで落ちてしまうと防御にまわらざるを得なくなり,せいぜい深くボールを返すしか方法がなくなる。ジャック・クレーマーは,スタンドで観戦しているときに,せっかくいいポジションを取りながら躊躇してボールがネットより低いところまで落ちてしまい,それなのに攻撃的にボレーしようとするプレーヤーを見ると,よく頭にきていたものである。ジャックの見てきた限りでは,低いボールをとって攻撃的にボレーして成功するプレーヤーは,テニス史上にもほとんどいなかったのである。
ロブが上がるのを見たら,向きを変えて3歩下がりなさい。ボールがネットのところに達するより先にサービスラインまで下がれれば,あなた方の頭上をうまくロブで抜ける人はいないはずだ。ロブで返球するにせよ,体の前でオーバーヘッド・スマッシュを打つにせよ,常にいいポジションがとれる。
前向きのまま足を揃えて後走する(バックペダル)より,肩越しにボールを見て後ろへ走るようにしなさい。その方が速く後ろへ下がれるのである(もしバックペダルの方が好きなら,テストしてみなさい。コートヘ出て,両方の走り方をやってみて,どっちが実際に速いかみてごらんなさい)。その他によく受ける質問は,「後ろを向いて走って行き過ぎてしまったらどうなりますか」ということである。それは特に問題ないのである。オーバーヘッド・スマッシュを打つためには,ボールが体より後ろになってしまうより、前へ踏み込んで打てる方がはるかにいいのである。オーバーヘッドは,サーブを打つのと全く同じように打つのが目標であることを思い出しなさい。
ロブが来そうだとの徴候を嗅ぎ取りながら,ネットですばやく反応することを恐れてしまうチームがある。相手が自分たちをだまして下がらすためにロブのふリをしてから,水平方向に切り換えて,びしっと打ってくるのではないかと考えるのである。幸い,途切れのない打法で二つのショットを打つことはできないのである。あるやり方でボールを打とうとしながら,全く同じスイングで第二の方法に切り換えようとするのは過大な願望である。やリたければやらせればよいのであって,その結果については安心していられる。
●いいダブルスとは組織だった混乱である
多くのダブルスでは,プレーの動きはかなりのんびりしたものである。ちっとも動こうとしないで,一定地点に根をおろしていることで安心しているのである。しかし,いいダブルスにおいては,二つのショットがかわされる間,同じ場所にい続けたら,それはとんでもない誤りを犯していることになる。常にパートナーと一体となって,前へ,後ろへ,横へと動き続け,ほとんど自動的にすべてのショットにかかわりあうようにすべきなのである。
今日のプロ・テニスの水準では,ダブルスのやり方に“神風”型の傾向さえ見られ,レシーブ側のチームは,レシーブ後に盲滅法ネットに突進するのだが,それは後陣にとどまってベースラインから得点しようとしても結局は失点する結果になるからなのである。だから,4人ともがネットでたがいに攻め合うダブルスとなり,“最初に臆病風に取りつかれた方が負ける”のである。すばやい身のこなしと反射神経に頼るボレーの応酬は,非常に混乱して見えるものである。
しかし,私は,深い位置から得点することは不可能であるとする理論は買わない。“ネットを取る”システムは,本当にしっかリしたストロークを持った二人のプレーヤーからなるチームから,絶えず心理的重圧をかけ続けられるテストを十分に受けた上での結論はまだでていないのである。着実にうまいロブを上げ続け,オーバーヘッド・スマッシュを受けてまたうまくロブしたり,ベースラインの後ろから強烈なグラウンド・スマッシュを打ったりするチームより勝るとは言い切れないのである。もし,こういったベースラインからの武器がなければ,後陣に居続けるのは全くの愚の骨頂だから,それなら“神風”型でいった方がましであろう。
●私の側であなたは何をしているのですか
「おい,何だって私のボールを取るんだ」と文句を言うことから,テニスでもっともありふれた議論が起きる。“こっちは私のサイド,そっちはあなたのサイド,私のサイドのボールを取るな”というダブルスについての考え方が世界中にひろがっているためにこういった論議が起こるのだが,そういうやり方でプレーしたいパートナーと組んでいるのだったら,試合に勝ちたければそのパートナーを早く捨てた方がいい。パートナーがお母さんなら,ネットに近いプレーヤーが優先権を持っていることをわかってもらうようにしなさい。
近代テニスにおいては,“私のサイド,あなたのサイド”といった観念はない。おたがいに前に後ろにと入れかわり,急上昇,急降下するのである。もし一人が後ろに遅れてしまったら,パートナーに横にとびついてもらって,本来なら自分のボレーになるボールをネットで決めてもらいたいと望むべきなのである。パートナーがネット・ポストからネット・ポストまでボールが取れる限りの範囲内で優先権を持っていることを了解しているべきだ。
パートナーが自分の前へ走り込んで自分のボールを盗んだからといって,頭にきてはいけない。あなたが調子よくプレーしていれぱ当然到達していなければならない場所で,パートナーはあなたの動きをカバーしながらボレーしているのである。その上,得点するチャンスは,そうしてもらった方が大きいのである。前でボレーを打った方の人が,遅れてしまったパートナーを振り向いて,「早くネットヘ出て自分のボールは自分で打て。こんなのはうんざりだ」と言うべきなのである。
全米選手権のダブルスに12回優勝しているルイーズ・ブラフと組んで南カルフォルニア近辺のトーナメントの混合ダブルスで何回かプレーしたことがあるが,私はそのときに,センターのボールをどう扱うべきかを学んだのである。ルイーズと一緒にプレーし始めの頃は,ルイーズの方が私より第1歩が早く,センターのボレーはいつも彼女が取っていた。彼女の方が私よりうまかったわけだが,いつも目の前をスカートをひるがえして「私が打つわ」と言い,一方私の方は1日中「すばらしい,すばらしい」と賞めてばかリいる。私の自負心は大いに傷つけられたのは当然である。私は文字通り試合の前の毎朝早くにコートヘ出て,自分のボレーを自分で打てるように,ひたすら第1歩を早くする練習をしなければならなかった。
もう一つ注意しなければならないことは,懸命にセンター・ストライプを越して逆サイドに走ったら,今度はそのサイドがあなたのサイドであり,パートナーは入れ換わる義務がある。逆側に行き出してから,突然“いや,やっぱり行くべきではない”と考えて急いで戻ったりしてはならない。そんなことをしたらパートナーを窮地におとしいれることになる。ボールを取りに行く決意をした以上,責任はあなたにある。
●だれがロブを取るか
ネットにいるときに,頭上をロブで越されたら,パートナーが走って取りにゆくべきであると考えているプレーヤーがいる。これは誤りである。どんな種類のダブルスでも,ボールが頭上に上がった場合には,コートの自分の側についてはネットからベースラインまで自分の責任範囲なのである。自動的にパートナーの方を向いて「お願い」などと言ってはならない。パートナーも同時にあなたに「お願い」と言うことになるかも知れないからである。何らかの理由で,あなたが全くポジションからはずれてしまっている場合以外は後退して自分で打つべきなのである。
18フィート(約5.5メートル)の広さ,39フィート(約11.9メートル)の長さである自陣コートの縦半面の責任は自分にあるのだと考えなさい。基本的な責任の所在は以上の通りであることから事は始まる。パートナーがこの領域に入り込むべきときは,彼がそのショットについての優先権を握ったときと,あなたがボールにとび込んでバランスの立て直しがまだできていないときだけである。
●左利きはどちら側でプレーすべきか
この質問を左利きのプレーヤーからよく聞かれる。重要な点は,だれとプレーしているかを理解することである。いつもアレーに打とうとしてくる中級プレーヤーが相手なら,左利きは左側にいるべきであり,そうすれば,両方のアレーをフォアハンドでカバーできる。うまいプレーヤーは常にセンターをついてくるので,左利きは右側でプレーし,センターにフォアハンドを二つ持ってもよい。また,左利きが,右サイドにいれば,バックハンドのサービス・リターンを引っ張ってスイングし,ボールをネットにいる人から遠くへ打つことができる。
●ボジション
コートのサイドを決める段になると,男性は別の神話を不朽のものとしたがる傾向がある。男性は二つのサイドのうち,やさしい方を女性にやらせてやると言って彼女を納得させるという不公正な役割を演しる。二人ともが右利きだったら,彼は「いいかい,君にレシーブのしやすい右サイドをやらしてあげるよ。僕はむずかしい左サイドをやる」と言うだろう。これは嘘であるが,女性はこの言葉にだまされる。右コートでプレーすると,いいテニスの場合は特にそうなのだが,非常にむずかしいことになるのである。彼女は決まってバックハンドでレシーブさせられ,ネットにいる人の届かぬところにボールを打つにはインサイド・アウトに打たねばならない。しかし,パートナーはそういうふうには考えてくれない。
プレーが始まり,相手側のチームが,彼女のバックハンドにサーブするとしよう。ほとんどだれでもそうなのだが,バックハンドでは引っ張りがちになるもので,彼女とて例外ではない。彼女のショットはネットにいる相手の男性のところにいってしまい,彼女の夫はケバケバのサンドウィッチをご馳走になってしまうのである。夫は振り向いて「ばか!私は15年間もネットにいる相手に届かぬようにリターンしろと.いってきたじゃないか。さあよく見てなさい。どうやったらいいのか見せてあげるから」と言う。夫はレシーブをしに戻り,ボールはバックハンドに入ってきて,彼女と全く同じやり方でスイングするのである。違っている点は,彼が引っ張ってスイングするとボールはネットにいる人からはなれて遠く飛び,サーバーのところにいくだけだ。男性が偉大に見えるのは,たまたま彼が,弱点でもいいショットの打ちやすいサイドにいるからに過ぎないのである。だから女性たちよ,男性のこんなペテンにひっかかったままでいてはならない。テニス史上での偉大なダブルス・チームは,レシーブのうまい右コートのプレーヤーによって生まれてきたということを銘記しなさい。30オールとかデュースは心理的圧力のかかるポイントであり,もし女性がここでサーブをうまく返球して得点するのに貢献できれば,心理的圧力のすべては,サーブをキープしなければならぬサーバーに移り,そして彼女のパートナーはリラックスできるのである。
クラブ・テニスでは,女性が相当のバックハンドを持っているなら,彼女に右コートでプレーさせるのはそれだけの価値がある(ただし彼女のパートナーが前述のような事情がわかっていればの話である)。第一に,男性にとって左から右にポーチする方がやりやすい。第二に,男性がパートナーの頭上を越すロブを左から右に追いかけて打ちにいける(理想的には,各人が自分の側についてはネットからベースラインまでカバーすべきだが,現実にはたいていの女性はロブを追って後退するのが遅いのである)。第三に,男がセンターのボールをフォアハンド・ボレーで打てるので伸筋の弱い女性がバックハンドのハイボレーで攻撃しにくい点をカバーできるのである。
男性が専横に女性に右コートを押しつけると,さいわいにしてその日の終わりには帳尻があって五分五分になり,釣合いがとれる仕組みになっている。彼女のサーブのとき,男はネットでポーチするのが好きで多くのポイントをかせいでくれて,おかげでサーブをキープする。しかるに男のサーブのとき,女性は通例ボレーが好きでなくポーチすることを恐れているので,サーブはたいていキープできない。さて夫婦はわが家への車のなかで,今日の責任について大論争を展開するのであるが,女性は,すぐに夫の気力をそぎ,がっくりさせることができる。「私のせいにしないでよ。私はサーブを全部キープしたわ」と言うのである。