「I」はヒゲを剃れるか?
それとも他の文字も皆ヒゲ付きにするか?

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ヒゲ付き文字とヒゲなし文字の例

最近あるカナダ人から本学会宛に手紙がきました。その趣旨は、コンピュータのディスプレイやプリンタに表示されるローマ字には"I"だけにヒゲ(Serif)があり他の文字にはヒゲがないが、(元)グラッフィックアーティストでありスコットランドで教育を受けたこのカナダ人には非常に奇異に見える。ローマ字の伝統を尊重して、すべての文字をヒゲ付きにするか、すべてヒゲなしにするかのどちらかにしてほしい、というものです。

そのつもりで英文の雑誌を見ると、ページによってあるいは記事によっていろいろな活字が採用されていますが、まとまった記事の中で採用されている活字はこのカナダ人の指摘のようにすべてヒゲ付きかすべてヒゲなしかのどちらかで、混同はないようです。(図参照)ヒゲ付きとヒゲなしのローマ字が混じるのは、いうなれば漢字の明朝体と清朝体が混じるようなもので、それを母国語の文字として教育された人には耐えられないでしょう。もう一つ、この人はローマ字の幅(Spacing)のことも主張しています。すなわち、ローマ字の幅はそれぞれ違うのが当り前、というか違ってもよいので、現に違う幅の字が打てるタイプライタもあるとのことです。 ("I"に不要なヒゲを付けるのは、それによって活字の幅を他のものと合わせるためだと思い込んでいるふしがあります。)

今までは"I"と"1"の区別をするなど技術的理由でやむをえず"I"だけにヒゲを付けたのでしょう。最近の傾向をちょっと調べてみましたが、あるメーカのレーザプリンタにすべてのローマ字にヒゲが付いているものがありました。技術の進歩は限りありませんから、このようなプリンタないしディスプレイが徐々に増え続け、コンピュータ出力のすべてのローマ字にヒゲが付くのもそれほど遠い将来ではないような気がします。


*本会理事 三菱電機株式会社

(情報処理...1987年5月号談話室より転載)